古民家というのはどういうものなのか皆さんはご存知ですか、

古い日本の伝統的な建築構法で建てられた建物というのは想像できると思いますが、

例えば昭和何年までに建てられた建物とか、何年以上経過した建物とか、

こういう建て方をしているから古民家だとか、実は具体的な定義というものは

意外にないのです。

国の文化財登録制度というもので考えるとこの制度に登録できるものは

建てられてから50年以上経った建築物が対象になっていますので、

そこから推測すると50年以経った建物を古民家と呼んでいいのではないでしょうか。

登録有形文化財制度は1996年に改正された文化財保護法に基づいて登録される

有形文化財です。

主な登録建物は江戸時代のものから明治以降に建造され全国で2011年7月時点で

8331件登録されています。東京大学の安田講堂や大阪にある

日本基督教団大阪教会や愛媛の松山地方気象台など、石やレンガ造りのものが多いが、

中には高知県にある畠中家住宅(野良時計)などの古民家なども含まれています

この制度は戦後の急激な高度経済成長による都市化で明治以降の近代の多種多様な

建造物がその価値を評価されず解体されて行く事を危惧し、昭和40年代頃から

近代の建造物が国の重要文化財や地方公共団体の文化財に指定される事例が増え、

国のレベルでの重要なもののみを厳選する重要文化財指定制度のみでは不十分であり、

より緩やかな規制の下で幅広く保護していく必要性が議論され、重要文化財の

指定制度を補うものとして創設されました。

以前は登録の対象となるものは、当面建造物のみとされ、美術工芸品、

歴史的資料などは除外されていましたが、2004年の文化財保護法の改正で、

建造物以外の有形文化財も登録の対象にされ、有形民俗文化財、史跡や名勝などの

天然記念物についても従来の指定制度を補完するものとして登録制度が導入され

登録された有形民族文化財は登録有形民族文化財、史跡などは登録記念物と呼ばれます。

登録される建造物の基準は

(1)国土の歴史的景観に寄与しているもの

(2)造形の規範となっているもの

(3)再現することが容易でないものとされ、原則として建設後50年を経過した

   ものが対象となります。

家を建築する際には建築基準法という法律に従って様々な条件をクリアする

必要があります。建築基準法が昭和25年にできた法律で幾度かの改正を経て、

現在建てられる住宅は世界的に見ても精度が高く、また地震などに対しても

そこに住む人々の生命、財産そして安全を守り、安心して生活できる

空間を提供してくれています。建築期間も昔に比べ短くて3ヶ月ぐらいで家は完成します。

安心、快適な生活を守ってくれる現在の住宅は魅力的です。

一方昔の古民家はどうでしょうか?

さすがに今も昔ながらに囲炉裏や土間で生活をするような家というのは

無くなってきたかと思いますが、それでも昔ながらのそういったものが

残されている古民家に出会う事は少なくありません。

古民家に住まわれている方にお話をお聞きすると残念ながら

皆さんはもう古民家には住みたくないとお話しされます。

なぜなら、古民家は

寒くて、

室内は暗くて、

現在のライフスタイルでは決して使いやすい間取りではないのです。

100年、200年前は当たり前だった土間での調理も今では大変で、

木製建具から吹き込む冬場の寒いスキマ風の中ではゆっくり休む事も

ままならないと思いますし、日の光が入りにくい建物の構造は昼でも

電気をつけないと暗い室内は何となく気持ちまで落ち込みそうです。

古民家から学びたいのは不便な生活を体験したいのではなく、

古民家に活かされた様々な先人達の知恵を学び、それを現代の生活の中に

上手く取り込む事で持続可能な循環型の建築を取り戻す事です。

持続可能な循環型の建築とは木材などの再活用が可能で廃棄物として

処分しても環境破壊をしない安全で安心できる資材や、

耐久性のある建物でメンテナンスを行う事でライフスタイルの

変化にも柔軟に対応できる住宅なのです。

また私たちは日本古来の技術の継承や自然と共生できる暮らし方の

知恵を未来の子供達へ引き継ぐ使命があると考えているのです。

具体的には、古民家の事を学び、そこに活かされた先人達の技や考え方を

現代の住宅にも取り入れて活用する。そうする事で、現在日本の住宅の

耐用年数の短さを解消し、200年程度は持続可能な住環境をユーザーへ提案し、

地球環境へも貢献していくという事です。

古民家の良さをあげてみると、古民家に使われている部材は自然素材なので

再活用しやすく、また廃棄しても有害なものはでない。

伝統構法という建て方は現在の住宅の建築構法である在来構法とは

地震に対しての考え方が異なり、伝統構法の免震的な考え方は

大きな地震が起こったとしても倒壊をふせぎ修理が可能で、

いわば現在の高層ビルと同じような優れた考え方である。

地産地消の材料で建てた古民家は無駄な輸送をおこなわない為に

二酸化炭素などの排出を抑え地球環境にもいいし、何より地元の気候風土にあった

材料は家自体の耐久性を延ばすにも有効である。

古民家は確かに冬は寒いのだが、夏は涼しく快適に過ごせる。

この夏の暑さを和らげる工夫は現在の住宅でも活かす事ができる。

外部との自然空間との親密さや一体感を重視した古民家の間取りや

考え方は自然環境との調和を生み、結果人の心にも癒しを生みだす。

古民家の間取りの考え方は個人主義では無く、家族での団欒を重視する

考え方でこれは現在の核家族の子育ての中でも学ぶべき点は多い。

現在の住宅のように食事や寝室を分ける間取りではなく、

一部屋で就寝を重複しておこなう古民家は、家の大きさを小さく出来、

コスト面、環境面とも学ぶ事が多いと思います。

対して現在のライフスタイルにそぐわないものとしては、

お客様中心の間取りは使いづらい。

土間でおこなう様々な作業は現在の住宅では無い為に無駄なスペースとなる。

男性と女性で使用する部屋が違う封建的な考え方は現在の生活にはそぐわない

冬の寒さは改善する必要が大きいと思います。

先人の知恵に学ぶべき所は学び、現代のライフスタイルに合わせた提案が必要です。

「家の作りようは夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。

暑き比わろき住居は、耐え難き事なり」

と吉田兼好の徒然草に住まいについて書かれています。

現代風にいえば住居は夏涼しく過ごせることが大事で、

冬寒いのは我慢できるということでしょうか。

日本の夏の暑さは赤道に近い東南アジアなどとほぼ同じで、

季節によってはむしろ東京の方が東南アジアより暑い場合もあるのです。

逆に冬の寒さも北欧並み……私たちの祖先はこんな過酷な土地で

生きていくために様々な知恵を住まいに活かしてきました。

先人たちの快適に暮らすための知恵は現代の住宅にも十分活かしていけます。

日本は南北に長い地形のためか様々な住居の形を見ることができますが、

そのどれにも共通するのは、エネルギーを出来るだけ使わずに材料を調達し、

冬の寒さと夏の暑さに対応できる住宅をその土地に合わせて解決してきた事です。

民家が持つエコな精神や省エネルギー技術や工夫は、環境の世紀と言われる

21世紀に再度見直されることでしょう。先人たちが残した知恵の塊である

古民家を今こそ再評価する必要があります。

古民家は夏を快適に過ごすために様々な工夫が施されています。

例えば、屋根で日射を遮り、深い庇は夏の日射を遮り、太陽高度が下がる

冬は日差しを室内奥深くまで導き入れます。

藁葺きの屋根はしみ込んだ雨がゆっくりと蒸発する事で熱を逃がす役割もあります。

外壁の白い壁で日射を反射し、土壁などの熱容量の大きな材料を用いることで

夜間に冷えて昼間の温度上昇を防ぎます。

畳や土壁は吸放湿性に優れ、ほど良く調湿してくれます。

家の周りに植栽や池を配し、周辺の空気を冷やし室内に取り込みます。

夏には夏障子などをしつらえて風通しをさらに良くしてくれます。

また、京都の町屋などは間口が狭く奥行きの長い、いわゆるウナギの寝床の

様な作りですが、風通しが悪くなりそうなこのような構造でも中庭を

設けることにより空気の流れを作り出し快適に住まうための工夫があります。

実際に古民家を実測したデータによると夏場は外気温より2〜3度室内の方が

低くなったそうです。

また、現存する古民家の多くは非常に長い耐久性を証明していますので、

これを守り住むことで、地球にやさしい環境負荷の軽減に役立ちます。

持続可能な住居を考えるならまず古民家に目を向けて学ぶ必要があります。

その昔、戦国時代が終わり平和な江戸時代に移ると、都市部を中心に

建築ラッシュが起きました。またケンカと火事は江戸の華と言われたように

家と家が密着した長屋造りは火事になると損害が大きくなって傾向がありました。

こうした中、で木材の需要は増加し各地で林地が荒廃するようになり、

洪水や崖くずれが頻繁に発生し、幕府や各地の諸藩は材木の切り出しを

制限して森林の保全に乗り出します。

そうすると材木の価格は当然高くなりますので、材木をリユースする動きが

活発になってきます。古材として、材木を再度建築に活用するという事です。

これが古民家において木材再利用技術が発展した背景であり現在言われる

持続可能な住宅の基礎は江戸時代の日本に存在していたのです。

また古民家に使用されている材料は、基本的に全て持続可能な材料です。

木材、土、植物、民家の構成部材のほとんどは自然素材であり

周辺で採取が可能であり、また再利用ができるものです。

木材の場合は新しい木材よりもむしろ経年した古材のものの方が強度も増していきます。

木材の場合腐朽菌により地面に近い部分などから腐っていきますが、

根継ぎなどの補修技術を用いることで劣化を一部分にとどめ、

全体の寿命には影響を及ぼさない持続性を保つ事ができます。

土壁などの土は新しいものよりも古い土のほうがバクテリアが多く、

藁の発酵を促進して塗りやすいと言われています。植物は再生される

期間より長く使用すれば再生可能な資源であり、地産地消であれば

輸送コストをかけずに環境負荷も小さくできるのです。

また、その建築構法も経年変化により変化する金属をほとんど使用しない

伝統構法は継ぎ手などの分解が可能な接合技術で組み上げられているため、

リユースを前提とした解体も容易に可能となります。

また、襖や障子で簡易に間仕切る田の字の間取りは可変性に富み季節や

生活スタイルに合わせて何度でも間取りを変更する事が可能で、

それ自体にも出来るだけエネルギーを浪費しない工夫があります。

材料・工法・維持管理・そしてライフスタイルの変化にも柔軟に対応できるのが、

古民家の真の価値だと思います。

昭和に入り戦後の高度成長時代には、全てにおいて大量生産大量消費が良いとされ、

住宅も使い捨てのような時代になりました。欧米の住宅の耐用年数が70年以上の中、

日本の住宅の耐用年数は約30年となってしまいました。

住宅は25年から30年程度持てばいいのですから、

住宅に使われるものは安価でそこそこの耐久性さえあれば問題なく、

一度使ったものは手間をかけてリユースする事もなく使い捨てにされます。

また住宅の工業化が進み、自然木材などの規格化しにくい物は敬遠され、

また工事期間が長くなる左官工事なども敬遠され、

持ってきて取り付ければ終わりという建築材料=新建材が重宝がられました。

しかし、不幸にもこういう新建材には、人体に悪影響を及ぼす物質が含まれており、

ハウスシックという新たな社会問題まで引き起こしました。

人々は安全な住居を求めた結果、自然素材、左官の壁など昔の民家では

当たり前だったものを再認識し、今また取り入れようとしています。

持続可能な社会とは何かについて、経済学者のデイリーは下記の3原則を示しています。

・ 再生可能な資源は供給源の再生速度を超えることなく利用する。

・ 再生不可能な資源の利用の速度は再生可能な資源に転換する速度を

  超えないように利用する。

・ 汚染物質の排出速度は環境がそうした汚染物質を循環し、吸収し、

  無害化できる速度を超えないようにしなければならない。

とされています。江戸時代はほぼ国内の資源で自給し、

上記の三つを満たした持続可能な社会でした。

いまさら江戸時代に戻ることはできませんが、

先人たちの知恵を学び活かすことは大切なことだと思います。

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